農林水産省が発表した2025年の農林水産物・食品の輸出実績は、世界的な日本食ブームを追い風に活況を呈している。発表によると、輸出総額は前年比12.8%増の1兆7010億円に達し、13年連続で過去最高を更新した。2025年の目標として掲げていた「2兆円」には届かなかったものの、円安やインバウンド需要の回復が寄与し、堅調な伸びを見せている。しかし、世界で「日本食」ブランドが輝きを増す一方で、国内のうなぎ外食チェーンには不穏な空気が漂い始めている。海外での成功と国内での苦戦、そのコントラストが浮き彫りになってきた。
米国・中国市場の動向と品目別の明暗
輸出の牽引役となったのは、前年に続き最大の輸出先となった米国だ。2025年4月に導入された新たな関税の影響が懸念されたものの、緑茶や牛肉への需要は根強く、対米輸出額は13.7%増の2762億円を記録した。農水省輸出・国際局の担当者は、「世界的な和食への関心の高まりに加え、訪日観光客が帰国後も日本食を求める動きや、健康志向の高まりが需要を底上げしている」と分析する。
一方、中国向け輸出は前年の落ち込みから一部回復を見せ、7.0%増の1799億円となった。錦鯉やビール、丸太などの品目が寄与した形だが、懸念材料は依然として残る。2023年8月の東京電力福島第一原発の処理水放出を受け、中国政府は日本産水産物の輸入を全面的に停止。2025年半ばに禁輸措置の一部緩和が行われたものの、本格的な回復には程遠いのが現状だ。「緩和後も水産物の輸出は大きく戻っていない」と担当者が語るように、政府はアジア他国や米国など、輸出先の多角化を急いでいる。
品目別に見ると、牛肉、コメ、緑茶、ブリなどが過去最高の輸出額を記録した。政府は2030年までに輸出額5兆円という野心的な目標を掲げており、今後は日系企業だけでなく、現地の主要小売店やレストランへの販路拡大、および抹茶のような高需要品目の生産体制強化が鍵となるだろう。
急成長「鰻の成瀬」に忍び寄る影
世界市場で高級食材としての「日本食」が評価される一方、国内では庶民の味方として急拡大を続けてきた外食チェーンが岐路に立たされている。「うなぎを日常食に」というコンセプトを掲げ、安価な鰻重で人気を博してきた「鰻の成瀬」だ。
運営元のフランチャイズビジネスインキュベーション社によれば、2022年の創業からわずか3年で381店舗を展開。海外進出も果たすなど、その勢いは一見すると留まるところを知らない。公式ウェブサイトの「お知らせ」欄には、「見沼深作16号店 10月25日オープン!」「飯塚八木山店 11月22日オープン!」といった新店情報がずらりと並び、出店攻勢はいまだ続いているように見える。
しかし、その華々しい拡大路線の裏で、不可解な現象が起きている。公式情報として公表されない「閉店ラッシュ」が静かに進行しているのだ。実態を調査すると、ここ数ヶ月だけでも、東京の府中店や高幡不動店、福岡の筑紫野天拝坂店、兵庫の六甲道店、愛知の小牧店など、全国各地で閉店が相次いでいることが判明した。中には、埼玉の浦和店のように2024年2月のオープンからわずか1年半余りで撤退を余儀なくされるケースも見られる。
客足の減少とコンセプトの揺らぎ
「まだ閉店していない店舗」の様子も芳しくない。かつてはメディアで大きく取り上げられ、行列ができることが常だった同店だが、現在の口コミや現場の声には変化が生じている。「3連休なのに店内はガラガラ」「客が私一人しかいなくて気まずい」といった、客入りの悪さを指摘する声が目立つようになったのだ。
なぜ、これほど急速に潮目が変わってしまったのか。一つの転機として指摘されているのが、昨年8月の施策変更だ。それまで「鰻の成瀬」は、高騰するニホンウナギの相場に対し、「価格は半額程度、量は1.5倍」という圧倒的なコストパフォーマンスを武器にしてきた。しかし、世界的な稚魚不足による価格高騰や物価高の波は避けられず、メニュー改定や運営方針の変化が生じたことで、消費者が敏感に反応した可能性がある。
海外では「高くても売れる」プレミアムな日本食市場が拡大する一方で、国内では「安くて旨い」を追求したビジネスモデルが限界を迎えつつあるのかもしれない。2030年に向けて日本食のブランド価値をどう高め、同時に国内の食文化をどう維持していくのか。輸出記録更新のニュースの陰で、外食産業が直面する現実は厳しさを増している。