2026年北中米ワールドカップを前に、日本代表を取り巻く空気は、期待と不安が奇妙に入り混じったものになっている。森保一監督が発表した26人のメンバーは、ある意味で「現実的」だった。実績、コンディション、戦術適性、その全部を天秤にかけた結果とも言える。ただ、そのリストから三笘薫の名前が消えた瞬間、多くのサポーターが感じたのは戦力分析より先に、単純な喪失感だったはずだ。
三笘は5月9日のウォルバーハンプトン戦で左脚の太もも裏を負傷。ブライトンでのシーズン終盤を棒に振っただけでなく、日本代表からも外れることになった。森保監督は都内での会見で、「大会期間中に状態を戻すのは難しいとメディカルスタッフが判断した」と説明したが、その言葉にはどこか断ち切れない余韻が残っていた。
その後、ブライトンは三笘が太もも裏の手術を受け、無事成功したことを正式に発表した。全治期間は公表されていない。ただ、クラブ側のコメントからは、少なくとも短期復帰を急ぐ空気ではないことが伝わってくる。ヒュルツェラー監督も「タイミングは悪かったが、本人は前向きにリハビリへ取り組んでいる」と語っており、視線はすでに来季へ向いている。
皮肉なのは、日本代表がここ数年積み上げてきたサッカーが、まさに三笘のような選手を最大限に生かす構造だったことだ。相手を一対一で剥がせる突破力、局面を変える加速、停滞した時間を強引に動かす感覚。数字以上に、彼の存在は試合の流れそのものに作用していた。だからこそ、不在の影響は単純なポジションの穴埋めでは済まない。
もっとも、今回の代表は「欠けたもの」だけで語れる構成でもない。
昨年12月に左膝前十字靱帯を断裂した南野拓実もメンバー外となった一方で、冨安健洋は復帰を果たした。2024年6月以降、負傷などもあって代表から離れていたが、最終ラインにおける冨安の存在感は依然として大きい。空中戦や対人守備だけでなく、ビルドアップ時の落ち着きは、このチームにまだ不可欠だ。
中盤には遠藤航、鎌田大地、田中碧。前線には久保建英、堂安律、前田大然、上田綺世。欧州主要リーグで継続的にプレーしている選手が増え、日本代表の基準そのものが以前より明らかに引き上げられている。かつては「海外組」という肩書だけで特別感があったが、今はそこがスタートラインになった。
その中で、少し異質な存在として目を引くのが塩貝健人だ。3月のスコットランド戦で代表デビューを果たしたばかりの若手FWだが、ドイツで見せているプレーは単なる“将来枠”では片づけにくい。ボールを収める感覚や、相手CBとの駆け引きには独特の粗さと大胆さが同居している。完成度よりも、試合の流れを壊せるタイプという印象が強い。
今回、日本はグループFに入った。オランダ、スウェーデン、チュニジアという組み合わせは、一見すると極端な「死の組」ではない。ただ、どの相手も異なる難しさを持っている。
初戦のオランダは、おそらく大会全体を占う試合になる。ポゼッションの質、トランジションの速度、個の技術。正面から噛み合えば、日本が押し込まれる時間も長くなるだろう。スウェーデンはフィジカルと組織力、チュニジアは守備ブロックの堅さが厄介だ。どこか一試合だけを切り取れば勝機は十分ある。ただ、3試合を通して結果を積み上げるとなると、話は少し変わってくる。
森保ジャパンはこれまで、「あと一歩」のところまでは何度も来た。カタール大会でも世界を驚かせたが、最終的には壁を破り切れなかった。その経験を経て迎える今回の大会は、単なる再挑戦というより、世代全体の成熟度を試される時間に近い。
三笘を欠くことで、日本は間違いなく武器を一つ失った。ただ同時に、このチームは以前よりも「誰か一人」に依存しない形へ移行し始めてもいる。だからこそ、今大会の日本代表は妙に読みにくい。爆発的に勝ち進む可能性もあれば、噛み合わないまま終わる危うさも残している。
その不安定さ自体が、いまの日本代表のリアルなのかもしれない。