2025年12月5日に開催されたマイクロソフトの年次株主総会において、株主は2017年のプランに代わる「2026年株式プラン」を承認した。この動きは、同社の長期的なインセンティブ戦略の刷新を意味するものである。また、総会では12名の取締役全員の再任が決議されたほか、経営幹部の報酬案も承認され、2026会計年度の独立監査人としてデロイト・トウシュ・トーマツが追認された。
一方で、注目を集めていたAI(人工知能)や人権に関するいくつかの株主提案は否決された。この結果は、現在の同社の戦略的焦点と、株主が何を優先事項と捉えているかを浮き彫りにしていると言えるだろう。
市場の評価とアナリストの見通し
市場の反応を見ると、マイクロソフト株(MSFT)は1.63%上昇し、強固な財務体質と決算説明会での前向きな見通し、特にクラウドおよびAI分野での成長性が好感されている。金融情報会社TipRanksのAIアナリスト「Spark」による分析では、同社株は「アウトパフォーム(市場平均を上回る)」と評価されている。
テクニカル分析の側面からは慎重な見方も示唆されているものの、同社の戦略的投資と市場での圧倒的な地位は、依然として明るい展望を裏付けているようだ。アナリストによる最新の評価では「買い」が維持されており、目標株価は650ドルに設定されている。
2026年7月からの価格改定
投資家にとって無視できないニュースとして、マイクロソフトは法人向け製品の大規模な価格改定を発表した。具体的には、2026年7月1日より「Microsoft 365」の商用製品および政府機関向け製品の価格が引き上げられる。これは単なる観測ではなく、会社側から正式に提示された決定事項である。
多くの企業顧客に関係する主要な新価格体系は以下の通りとなる。「Business Basic」はユーザー1人あたり月額7ドル、「Business Standard」は14ドルに設定された。現場担当者向けの「Frontline F1」は3ドル、「F3」は10ドルとなる。さらに大企業向けの「Enterprise E3」は39ドル、「E5」は60ドルへと改定される。この価格引き上げは、2026年半ば以降の同社の収益に大きく寄与し始めると見られ、ARPU(ユーザー平均単価)の向上に関する議論の明確な回答となるだろう。
AI販売目標を巡る憶測と実情
株価に一時的な変動をもたらした要因として、AI販売に関する一部報道がある。情報サイト「The Information」によると、マイクロソフトの一部の営業チームが「Azure Foundry」や自律型AIエージェントに関する野心的な成長目標を達成できず、目標のリセットが行われたとの観測が報じられた。これを受け、市場では同社のAI成長シナリオに対する懸念が広がり、株価が乱高下する場面も見られた。
しかし、マイクロソフト側はこの報道に対し、全体的なノルマ(割当)の削減は行っていないと反論しており、報道が行き過ぎたものであるとの立場をとっている。同社は今年に入り二桁台の株価上昇を維持しているものの、AI主導の成長ストーリーに綻びが見えれば、大幅な下落につながるリスクも孕んでいるため、投資家は需要のシグナルを慎重に見極める必要がある。
エンタープライズAI導入の課題
モルガン・スタンレーによる2025年CIO調査レポートやバロンズ誌の分析によれば、現場の実情はより複雑だ。企業の予算自体は潤沢であっても、初期段階の「AIエージェント」導入には、データの整備やガバナンスの確立、組織内の変革管理といった「配管工事」のような地道なプロセスが不可欠となる。
そのため、販売サイクルは想定よりも長期化する傾向にある。短期的にはAI販売ノルマに関する議論が交錯しているが、年末に向けてこうした緊張感が市場の焦点となっていくことだろう。
